ETV特集『認知症とともに よく生きる旅へ』を見て

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 土曜日の夜は、月曜日のラジオの準備をして過ごすのですが、つい夜更かしをしてしまいます。本番前日の日曜日は、早く寝ようと思うせいか、土曜のうちに全て整えてマイクの前にと思うからです。そんな土曜の夜に、見るとはなしにつけたテレビでこんな番組を見ました。
 Eテレの特集『認知症とともに よく生きる旅へ』です。
 39歳で病気を発症した42歳の丹野智文(たんのともふみ)さんは、二人のお嬢さんの父親で仙台にお住いのサラリーマン。自動車販売の会社でトップセールスマンでしたが、発症後は事務職へと変わって現在に至っています。一見お話の仕方もしっかりしていて、笑顔でご自分の今を語る様子からは、その若さで認知症を患っている人には見えません。ではそんな丹野さんが現在どんな症状が出るのか...
 例えばそれまで車で通勤していた丹野さんですが、運転を諦め電車通勤になります。手には「若年性アルツハイマー 本人です。ご協力をお願いします。」というカードをしっかり握って乗車していました。どこで降りたらいいのかわからなくなるというのです。得意先の顔や同僚の名前も忘れます。仕事では一字一句丁寧にノートに書き留め、繰り返し確認しながら働いています。
 番組ではそんな丹野さんのイギリス10日間の旅を通して、〈認知症と診断されても諦めない人々〉との交流を軸にしています。不安と絶望に浸っていた丹野さんが、この病気になったことが人生の終わりではなく、新たな始まりなんだと決意するまでの記録、番組開始からグイグイ引き込まれるような濃い内容のドキュメンタリーでした。



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 訪れたスコットランドでは、発症してから最低1年間、一人に一人〈リンクワーカー〉が付いて、当事者と家族を専門家に結びつけてくれます。一番大変な時に最善の選択ができるようチームを組んで絶望から抜け出せる手助けをしてくれるのです。もう15年も前からの制度だそうで、素晴らしい制度だなあと思いました。実際その病気を発症している人たちが、生き生きと過ごすためのアイデアを出し合い、自ら国に提案をしこのリンクワーカー制度を作ったのだそうです。

 『Living well with dementia.(認知症)共によく生きる』

番組では壊れていくことに恐怖し、内にこもるのではなく、病気を受け入れ工夫しながら生きている人々から気付かされ、必死でメモを取る丹野さんをカメラが追います。いざパソコンに記録する際、もうその顔も印象も忘れているのですが、それでも必死に思い出そうと自分で書いたメモの言葉をキーで叩きながら、新しく何かできる、以前の自分と一緒でなくてもいいからできるだけ自分の事は自分でする、新しい人生を続けられる...そう呟きながら明るい表情になっていく丹野さんでした。
 

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 10日間の間に17人の認知症の人々と出会うわけですが、中でも印象的だったのは、車のエンジニアだったスチュワートさん、6年前に発症しましたが車の運転は続けています。車好きな二人は話が合ってそれぞれの思いを話します。スチュワートさんは自分から車を取ったら壊れてしまう。診断前にやっていたことをやめなくていいと教えられた時、丹野さんは運転を諦めたこと、持っているもの大切にしているものを失うことは魂がもぎ取られた思いをしたのでしょう、辛かったと泣きながら話します。進行しても工夫をしているスコットランドの人々から教えられます。
 もう一人はネットで繋がっているイングランドはヨークにお住いのミッチェルさん、60歳の女性でした。看護師だったミッチェルさんは、58歳で発症し勤めていた病院を辞め、一人暮らしを始めます。彼女が始めたのは記憶装置としてのブログでした。引っ越して新しい生活に適応するだけでも大変でしたが、どこに何があるか忘れるということをネガティブに捉えるのではなく、冷蔵庫やタンスに何が入っているか写真を撮って貼るという工夫で乗り越えます。病気との格闘は終わらないが対策は必ずある。病気と共に生きることを楽しむのだと笑顔で丹野さんに話すミッチェルさん。近くに住む看護師のお嬢さんも、そんな母親を誇りに思い、病気の母親を受け入れ自立を支えています。支援は必要だけれど、当事者がリスクを冒してでも自分で行動するということが大切だと丹野さんは気づくのです。




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 旅に出る前は、他国ではどんな支援を受けているか知る旅(どちらかというの受動的な旅)だと思っていた丹野さんが、同じ病気を持っていても誇りを失わず人生を前向きにとらえて暮らす人たちに出会い、リスクのない退屈な人生を送らなくてもいい、能動的な生き方を知るのです。
 国をあげての対策はまだまだ遅れている日本です。発症すると病人としての扱いはどうすればいいかという対策ばかり探していると言っても過言ではないと思います。しかし大切なのは自分はどう生きたいかに気づくこと。残された時間を最高のものにするのは、自分自身であり、認知症と共によく生きるための工夫をしていくことです。それに気づいた丹野さんは、旅の前とは違う晴れやかな表情をしていました。希望は与えられるものではなく自分で得るものなのだと思いました。

 どんな人も生きていれば病気にもなり、いずれ死を迎えます。
 認知症は忘れていく自分が何者か見失うこと、ついさっきまで覚えていたことがゼロになる恐怖は想像を絶します。その進行を遅れさせる薬があるそうですが、止める薬、あるいは認知症にならない方法があるのなら、誰しもが手に入れたいと思うでしょう。私たちは老いとも向き合っていかなければなりません。還暦を過ぎたわたくしも最近は物忘れが増えました。両親もそれ以上で日常の生活に支障が出てきたのも事実です。しかし怖がったり悲しむより楽しむこと(言うは簡単ですが)を心がけたいものです。誰しもが通る道なのですから。そうなった時に自分らしい暮らしを送るための工夫をして、共によく生きることを教えられた貴重な番組でした。
 



Commented by whitelacenonyo at 2017-01-17 21:44
この番組は見ていませんが、老いに遭遇することは長生きする人に取って大きな課題ですよね。しかし、頭で考える通りにできれば苦労はありませんが、、実態は想像に反することが多大でしょう。
普段はレッスンやお付き合いなどで多忙な日々を送っている私ですがふと、いえ最近は度々老いた自分はどうなるか、、どうするか、、を考えないでもありません。
15日、日曜日の読売新聞に五木寛之氏が”一人で行く覚悟”と題して書いていました。大いに同感した次第です。
思い通りに」人生が運べば苦労はないのですが、、、
mikiさんの今日のブログ、、深い思いに中、読ませていただきました。
Commented by miki3998 at 2017-01-17 23:00
whitelacenonyo様、こんばんは。
ETV特集は毎回見ごたえのある内容で、来週は昨年お亡くなりになった福島の高野医師を取り上げたドキュメントのようです。次回も必見です。
この丹野さんの旅のお話は、書いてしまうとあっさりしておりますが、ご本人の壮絶な闘いは、病気を発症したことへの絶望とこの先のことへの不安、まだ小さなお子さんのために懸命に仕事をし、旅の記録を必死で文字に残そうとあがく様子など、拙いわたくしの文章では伝わらない部分もあるかもしれません。再放送を願うばかりです。
物忘れが激しくなるのは年だからよと、実家の母と笑いながら話すのですが、起きたことを騒いだりがっかりするのではなく、そんな自分を受け止める覚悟が必要なのだと思いました。壊れていく自分にショックを受けているのは本人ですから、出来るだけ大げさにならないよう励まし、そんな自分を楽しみながら笑って過ごそうと家族と話しております。春には90歳の父と秋に84歳になる母、そこにいてくれるだけで幸せだと思っています。いまのわたくしがあるのはその二人のおかげですから。
by miki3998 | 2017-01-17 02:01 | 家族 | Comments(2)

風と海と丹沢が好き。山の家での毎日を綴っています。鎌倉FMのパーソナリティです。


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