父からの電話
2009年 08月 28日
空に浮かぶ雲の形や窓から入ってくる風の香りも、それは8月の盛りのとは違っていて、夏はもう行ってしまうのだと思うと、どこか物悲しさが胸をよぎり あらためてからからに乾いた空を見上げてしまう。 こんな気持ちになるのは、夏の終わりだけ・・・なぜだろう。
昨日の夜、久々に父の声を聞いた。その声は鼻声で、電話をかける前から泣いているようだった。いつもの楽天的で冗談を言っておちゃらける父とは違っていた。
「 ◎◎のごど えぎまでおぐってったじゃ。 きしゃくるまで いすさすわって しゃべったども やさしこだぁ。ちゃんとかんがえでるんだがらよ。 だいじょぶなんだ。 しんぺしねくてもいいんだがらよ。」
「 うん、わがってらよぉ。」 声が震えているのがわかる。
「 ほーむさひとりであるいでいぐすがたみだら かわいそになって なみだでできてわがねがったぁ。 いいんだじゃぁ、 いぎでるだげでいいんだがらよ。 おめのごどばりしんぺだぁ。 からだばりも きつけろよ。おれがいぎでるうぢは だいじょぶだがらよぉ。」
聞きながら私も目頭が熱くなり、返す言葉が出てこない。 父はきっと顔をくしゃくしゃにして泣いているのだろう。 一人で鈍行列車に乗って帰る孫の後ろ姿に 涙が止まらなかったと言う。
「あいやぁ、もさげねがったよ。 せわになったねぁ。 さっきかえってきたのっす。 いまごはんたべでら。どんこうでかえってきたがら はらへってらどおもうもの。 おじいちゃん、ありがとうね。 ありがとうね、おじいちゃん。」
必死で明るい声を出し、普段どうりの返答をしようとするのが精いっぱい。私まで電話口で泣きだしたら 傍で食事をしている息子にわかってしまう。
「 とうさん、冬にはかえるがらっす。 それまでげんきで、 かぜだのひがねでやぁ。としよりは インフルエンザさかがりやすずがらっす きつけねばだめだよ。 うじゃなはん。きるよ。」
みんな気にかけている。 生きることが不器用な息子のことを 我がことのように気にかけてくれている。
先週から長男は私の実家へ帰っていた。 老いた両親がこの暑い夏に鎌倉に来ることは難しく、特に体の不自由な父は もう一人で電車に乗ることも無理だと思う。 来れないならこちらから行くしかない。 仕事で忙しい私に代わって、久しぶりに元気な姿を見せに行ってきたら・・・ということで、長男は青春18切符で出かけて行った。鎌倉から約10時間の電車の旅。この夏、貧乏旅行に慣れてしまった息子は 10時間ぐらいへっちゃらなのだろう。
父の電話の後、すぐに弟から電話がはいった。無事着いたか心配して、そして叔父として息子に話して聞かせたと教えてくれた。
「 なんにもしんぱいしねくていいっけ。 よげなごどいわねで だまってるんだじゃ。 ◎◎は おめのごどいぢばんしんぺしてるっけがらよ。 こっちさいるあいだ、オヤジの世話したり、お袋のてづだいしたり、 マウイど遊んでけだりよぉ、 おれだぢも ほんとにたすかったぁじゃ。 いいやづだ、◎◎は。」
うんうん、わかってる。
食器を洗いながら 言われた言葉を思い出し 一人頷いてしまった。何も心配なんかしてないってば。
今朝は昨日の疲れが出たのか 寝坊をしてしまった。慌てて起きて、キッチンに立つと、二男はもうリビングでテレビを見ている。
「 ◎◎は?」
「 出かけたよ。」
残りの切符を持って、息子は朝7時には出かけたようだ。 行く先は京都。 昨日帰るなり旅の準備をしていたから、ちゃんと起きれたんだなあ。 晩夏の京都か・・・。 今頃はもう鴨川あたりでテントを広げているかもしれない。
生きるのに不器用は我が家の息子達も一緒。
でもひたすらに「一生懸命」何かを求めていたら
如何にかなるべさ。
お父上 いつまでも、お元気でおられるよう、祈らせてください。